30年以上、捨てられない本があります。
「アンネの童話」
小学生ぐらいのときにもらった本。
大人になって何回も引っ越したけれど、捨てられず…。
ずっと持ち歩いて、たぶん、一生持って歩くのだろうなと思います。
短い童話が10作収録されています。
そして、マメムは、その中のたった1作のために、この本を処分することができないのです。
「花売り娘のクリスタちゃん」
今回は、この話をご紹介します。
幸せって何だっけ? 心がふっと止まってしまったときに読みかえします。
正直に言うと、アンネの童話の全体的な雰囲気は、少々苦手です。
楽しい話もありますが、ちょっと教訓的な要素も強いというか…。
でも、それでも、この本を処分せずに、いつも引っ越し先に連れて行くのは、ただ1作だけのためです。
「花売り娘のクリスタちゃん」は、こんなお話です。
何の事件も起こりません。
単純なお話です。
お姉さんと二人暮らしの「クリスタ」は、12歳。
両親はいません。
お姉さんは、1日中、夜遅くまで、ある家のお手伝いとして働いています。
クリスタも働いています。
朝7時に家をでて、テクテク市場まで2時間半も歩いていきます。
そこで、花売りをしているのです。
近所の人たちは、同情していました。
「まだ12歳だというのに…。かわいそうに」
夕方近くまで市場で花を売ったクリスタは、また、トボトボ歩いて、家まで帰ります。
けれど、家についても誰も出迎えてくれる人はいません。
灯りのついていない家に帰るのは寂しいものですよね。
けれど、クリスタには、寂しがっているヒマはありません。
お姉さんが帰ってくるまでに、夕飯の準備をしなければなりません。
夕飯が出来上がるころに、お姉さんが帰ってきます。
二人は仲良く食事をするのです。
夕飯が終わっても、クリスタの1日は終わりません。
明日の仕事の仕込みをしなければならないのです。
夜の8時(ヨーロッパでは、薄暗いと注釈がついています)、クリスタは、花かごをさげて出かけていきます。
家からそう遠くない野原に行くのです。
そこで、花を摘みます。
小さな花束を作って、花かごをいっぱいにします。
「これで、明日も市場に行ける」とクリスタは言います。
もう夜になっています。
空には、星が輝きだしています。
さあ、ここからが、クリスタの一番、大好きな時間です。
野原に寝転がって星を眺めるのです。
ただ、じっと夜空を見つめます。
これで、話は終わりです。
ただ、最後の文章を少し長いですが、そのまま引用しますね。
原文ママなので、ほとんど平仮名です。
まい日、まい日、働きどおしでつかれている花売り娘の心の中が、不平不満だらけだろうと思っている人がいたら、それは大まちがい。
まい日、このみじかいけれどすばらしい、いこいのひとときがあるかぎり、クリスタはじぶんのことをふしあわせだなんておもわないでしょう。
広い野原で、花にかこまれて、だんだんとお星さまがふえていく夜空を見つめながら、クリスタは、一日のつかれをわすれます。
両親がいないことも、姉と二人きりのさびしさも、お友だちと遊べないかなしさも、なにもかも忘れるのです。
そして、心の中で祈るのです。
(神様、こんなきれいな花や星をつくってくださってありがとう。神様がいらっしゃるから、わたしはさびしくありません。なにも不満はありません。わたしは、とてもしあわせです。)
「わたしは、とてもしあわせです。」
この話は、そのセリフで終わります。
なんとなく…、フワッとした気持ちになる、そういう本です。
時々ね…、
本当に時々なんだけれど、この話を読み返します。
1年に1回?
いや、もしかしたら2年に1回ぐらいかも…。
それでも、なんとなしに手に取って読み返します。
そして、なんとも言えない気持ちになります。
世間一般の感覚からすれば、可哀そうと言われるクリスタちゃん。
でも、なんだろう…、羨ましさ?みたいなものを感じてしまうのです。
クリスタのパンとコーヒーのランチが、やけに美味しいそうに思える。
イヤ…、そういうことじゃない…。それもあるけど。
この12歳の主人公が持つ精神的な豊かさ…、
それは、おそらく、作者であるアンネが持っていただろう豊かさで…。
幸せって…、何なんだろうな…と。
世界って美しいかもしれない…と。
だからと言って、「クリスタも頑張っているし、よし、明日からも頑張ろう!」なんてことは、これっぽっちも思いません。(ゴメンナサイ…)
そして、読んだ後…、
とくに明確に何かの答えを得るとか、ヒントを得る、元気がみなぎるとか、そういうこともなく…。
ただ、なんとなしに…心がフワッとするような…。
泣きたいような…、
笑いたいような…、
そんな気持ちになるだけです。
そして、そんな気持ちを味わうために、この本に手を伸ばしてしまうのです。
挿絵がすこぶるイイと思うのですが、どうでしょう?
1977年に小学館から発売されたアンネの童話には、10作品が収録されていますが、1作品ごとに挿絵作家さんが違うのです。
「花売り娘のクリスタちゃん」の挿絵を描かれたのは、岸田耕造さんです。
実は詳しくは知らないのですが…。
この「花売り娘のクリスタちゃん」のお話と、この絵は、本当にピッタリだなぁと個人的には思うのです。
この挿絵の絵と色が、本の処分をためらわせる、もう一つの理由です。
こんな感じ…。写真ではわかりにくいかなぁ。
もう一つ…、
こんな感じ。
実際の挿絵のほうが、もっと淡い色で明るい感じ。
ほわほわした感じで落ち着きますね。
アンネの童話「花売り娘のクリスタちゃん」ぜひ、一度、読んでみてください。
アンネの童話は、いろんなバージョンで出版されています。
出版社も違うし、訳者も違う。もちろん、挿絵も違います。
図書館で借りて読み比べるのも面白いかも…。
アンネの日記も、まだお読みでないなら、一緒に読まれると童話の感じ方、受け取り方が変わってくるかもしれません。
日記を読むと、アンネの童話が本当に彼女の心の内側から紡ぎだされたものなんだと、心底、納得できると思います。
もちろん、アンネの背景を知らなくても童話の良さは味わえます。
マメムは、童話から先に読みました。
長い間、童話しか読んだことがありませんでした。
日記の方は、大人になってからサラッと読んだだけです。
なんとなく心がついて行かなくて…。
何度も読み返して、読み込むようなことはしていません。
それでも、最後にアンネの日記から、一言、引用したいと思います。
太陽の光と雲ひとつない空があって、それを眺めていられるかぎり、どうして悲しくなれるというの?
この言葉を読むと、アンネがクリスタちゃんに込めた思いが分かるような気がします。
そして、アンネの童話や日記が奇跡的に後世に残されたのは、神様がアンネの心を愛されたからなんだろうなと素直に思ってしまうのです。
出口がない、行き場がない、閉塞感に重圧…。
幸福感ゼロ…。
そんなふうに感じる生活に疲れたら…、
「花売り娘のクリスタちゃん」を読んでみて下さい。
そして、ちょっとの隙間からでも空を見上げて!
暗闇に輝く星…、満天の星じゃなくても…。
青い空に太陽…、雲で見えなくても…。
星も太陽も消えてなくなりはしないのです。
少しは見える、もしくは、いつか見えるのです。
答えは出ないけど、それでも、なんとなしに…ね?
上を見上げるだけで…、
気持ちが少し変わる気が…します…よね。
あなたが上を向くキッカケの1つになれたら幸いです。
マメムが持っている小学館のアンネの童話はコレです。
ちょっとお値段が高い。図書館がオススメですね。
文春文庫版は、少し内容が違いますが、まだお安い。